読書家が選ぶ、ルポタージュ・ノンフィクション本のおすすめ9冊

ルポ・ノンフィクション系の本は、読むだけで自分が知らない世界を知ることができるため、積極的に読みたいジャンルの1つです。

私は技術書を中心に、月に2~5冊程度本を読んでいますが、これまでに読んだルポ・ノンフィクション系の本からお勧めしたいものを紹介させて頂きます。

 

 

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一流家電メーカー「特殊対応」社員の告白

本書の面白さは、著者が特殊な顧客に対応した際の話をスリリングに読み進められる所です。

 

タイトルから「特命係長 只野仁」みたいな話?と思われるかもしれませんが、探偵のような仕事ではなく、家電メーカーのサポートセンターに勤務しているサラリーマンの話です。

それだけなら普通の話なのですが、対応する顧客や状況が特殊です。

 

特殊な話の一例として、パソコンの修理のために某医療法人の理事長秘書の所に出張した時の話があります。

顧客の所に到着すると、ボディーガードの人にケータイを没収され、部屋に監禁されてしまいます。

そのうえで、ハードディスクの故障したパソコンからデータを取り出せと要求されます。できなければ〇〇湾に沈めるぞ、と。

ハードディスクが故障したパソコンからデータを取り出すのは、至難の業で、故障の仕方によっては不可能なものです。

そういったヤバい人・ヤバい状況に対応してきた人の実話であり、思わず「そんな事あるの⁉」と言ってしまう内容です。

 

 

中高年ブラック派遣 人材派遣業界の闇

この本は、職場の人間関係に恵まれて来た人や、定年したら暇な時にだけ日雇い派遣でもやって暮らそうと思っている人に読んで欲しいです。

本書を読めば、日雇い派遣だけは止めておこうと思うはずです。

 

本書には以下のことが書かれています。

  • 著者が自分で多くの現場に派遣で働いてきた経験談
  • 日雇い派遣業者が利益を増やす仕組み
  • 日雇い派遣がブラック化してしまう原因

本書の内容で、私が特に印象に残っているのが、筆者が派遣として働いている時に現場の正社員から言われた「派遣のク〇が」という言葉です。

正社員からすると、派遣というのは正社員になれないク〇という認識なのでしょう。

 

長期的に一緒に働く場合なら、お互いのために一応仲良くしておこうという暗黙の了解があります。

ですが、日雇い派遣なら、今日限りの人間関係なので、憂さ晴らしのような雑な対応をする人もいるのでしょう。

 

意外にも、公的機関や大企業であっても、日雇い派遣に対しては差別的・コンプライアンス的に問題があるような対応をされる場合があります。

特に、ある程度の安定した企業で働いてこられた場合、本書で紹介される様なブラック派遣の現場を想像するのは難しいかもしれません。

人間の裏側を知っておくという意味でも、本書はお勧めです。

 

 

ルポ シニア婚活

もし、ご自身のご両親のうち、1人がお亡くなりになられた後、残された側が婚活を始めたらどうされるでしょうか。

お子さんのいる場合、シニアの婚活は相続権の問題も絡んで複雑になります。

シニアが婚活をすると、子供から「いい年してみっともない」と言われる事もあります。

かといって、子が親の再婚に反対して疎遠になっていると、気が付いたらロマンス詐欺の被害に会っていたということもあります。

 

私が印象に残っているシニア婚活をされている人の言葉を紹介します。

やっぱり年齢がいっても、こういうところに出てきて相手を探そうという人は、男も女も元気です。女性も皆さん、おしゃれをしていますし。

そういうエネルギーを生きがいにしてもいいと思うんです。相手が見つかればラッキーだし、たとえ見つかれなかかったしても、家に閉じこもっているよりは、外に出て人に接しているほうがイキイキしていられる。

それが生きがいになるから、それでいいんじゃないかな。

 

婚活に関する本は、こんなヤバい人がいた等、面白おかしく切り取った個人的な体験談が多いです。

ですが、本書は60~80歳くらいの実際に婚活をされている人、シニア向け結婚相談所を運営する人に取材をして書かれた話なので、シニア婚活・シニアの国際結婚等の知らなかった実態を知ることができます。

また、80歳くらいの方たちのプロポーズのエピソードを読んでいると、なんとも微笑ましい気持ちになりました。

 

シニアになっても人生を楽しみたいと思う人にお勧めしたい一冊です。

 

 

不死身の特攻兵

本書を読んでの感想は「特攻隊として亡くなられた方を英霊と呼ぶべき、ではなく、彼らの無念さを想像すべきだった。」というものです。

 

特攻隊と聞くと、今までは何となく「命をかけて日本を守ってくれた勇敢な人」というイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。

しかし、本書を読めば特攻隊に対するイメージが大きく変わります。

本書を読んでいると、特攻隊の理不尽さにやるせなさを覚えるとともに、現代でも聞くような上層部の無茶振りにあきれる思いがこみ上げてくるはずです。

 

特攻隊員のほとんどは志願兵ではなく、無理矢理に志願させられた人達でした。

上官の怒声であったり、組織的に断れない状況を作った上で依頼する、といった方法があったそうです。

現代の我々でも、圧力に屈して本当はやりたくないのにYESと言わされてしまう状況はあると思います。

ただ、我々の感じる圧力は、会社等の組織の圧力だと思いますが、戦時中の特攻隊員が感じた圧力に比べれば軽いものではないでしょうか。

 

本書を読めば、特攻隊に対する歴史的な認識が深まるだけでなく、自分の生き方を見直すきっかけにもなると思います。

 

 

最貧困女子

本書の内容は、私のように普通に学校に行って就職して働いているような人には、同じ日本の出来事とは思えないような内容です。

 

本書に登場する貧困女子について、著者自身次のように語っています。

20余名という少数への取材をした後、僕はこのテーマでの取材を一切していない。というか、できなくなった。

ここで懺悔するならば、僕は逃げたのだ。彼女らを取り巻く、圧倒的な不自由と、悲惨と壮絶から、僕は尻尾を巻いて逃げ出した。

そこにあったのは、考えても考えても救いの光がどこにあるのか分からない、どう解決すればいいのか糸口も見えない。そんな、「どん底の貧困」だった。

収入が少ない程度の話ではなく、仕事が無くも住む場所も無く、おそらく、取材のしばらく後に亡くなってしまったのではないかと思えるような女性達の話です。

 

彼女達は、生まれた家の問題から、学校にもほとんど行かせてもらえなかったので教育も受けられず、DVから精神を病み、容姿の問題から夜のお店にも採用されないという状況です。

彼女達は何故かかたくなに生活保護を拒否します。生活保護を受けるためには、形式的にでも、一度家族に支援を依頼する必要があります。ただし、DV等の問題からか、家族と連絡するのを拒否します。

 

また、仮に生活を落ち着けることができても、精神を病んでしまっていたせいか、自滅をする例が多いそうです。例えば下記のような話があります。

過去に貧困や虐待のエピソードを持った少女らは、環境が落ち着いたとたんに、その痛みを噴出させる傾向がある。

家出生活中は止まっていたはずのリストカットが盛大に復活したり、部屋の中を滅茶苦茶に破壊してしまったりという行動がある。

 

本書を読んだとしても、何か解決策を提案できる訳ではないかもしれません。

ただ、マザーテレサの言葉に「愛の反対は憎しみではない。無関心だ。」というものがあります。

こうした人達の存在を知ることが、何かを変える一歩になるのではないかと思います。

 

 

ソ連兵へ差し出された娘たち

本書は相当にやるせない一冊です。

第二次世界大戦中に、開拓民として満州に移住した人達がいました。移住した人達の多くは、日本では貧しい生活をしており、新天地を求めて満州に行った人達でした。

現地での生活は決して楽な様子ではありませんでしたが、日本の敗戦までは多少は安寧のある日々だったようです。

 

しかし、日本が敗戦してからの満州に移住していた人達の生活は酷いものです。中国人やソ連軍からの暴行・略奪が繰り返されます。

そんな中、移民団のリーダー達は自分たちの安全を守ってもらうために、ソ連軍に対して移民女性による「接待」を申し出ます。18歳頃の独身女性達が、自分たちの知らないうちに取引の材料とされ、「接待」を行わされました。

ソ連軍に対して「接待」として差し出された以外にも、本書には読むと憤りを感じる内容が書かれています。

 

敗戦国の女性・子供が酷い目にあうのは戦争では当然の様に起こってきましたが、差し出すから安全を確保してくれという男の態度、帰国後には「減るもんじゃない」と言ってのける神経に怒りが沸き起こりました。

読後は、自分の生き方を自分で選べなかった彼女達に深い悲哀の念を感じるとともに、生き方を選べるのに不満を言っている自分を情けなく思う一冊でした。

 

 

ひそかに胸にやどる悔いあり

本書はノンフィクション系の中では比較的に軽めに読める本です。

少し特殊な経験をした人からごく普通の人まで全部で19の話が掲載されています。

1つ1つ、著者のインタビューを基に書かれており、実際の市井の人の息遣いが感じられる本です。

決して明るい内容ばかりではないですが、不思議と読後感は良く1話5分程度で読めるため、少し気分を紛らわせたい時にお勧めしたい一冊です。

私が特に記憶に残ったのは、街のサンドイッチマンの話です。サンドイッチマン(看板を体の前後に抱えて街中に立っている人)の男性の話が、少し暗さもありつつ、暗いだけではなく、血肉の通った人間として描かれている様が印象的でした。

 

 

地上最強の男 ー 世界ヘビー級チャンピオン列伝

かつてボクシング世界ヘビー級チャンピオンが「地上最強」の象徴であった時代がありました。

本書では、ベアナックル・ファイト(素手での殴り合い)からボクシングという競技が誕生した頃(1800年代後半頃)~ベトナム戦争頃(1980年頃)までのボクシング世界ヘビー級チャンピオンについての人物伝を取り上げています。

この頃は、世界大戦・人種差別・世界恐慌等の歴史的な負のイベントが多くあった頃であり、そうした歴史を背景にさまざまなドラマのある選手が排出されます。

例えば、世界恐慌の影響で子供のミルクさえ買ってやれず、一時は生活保護を受けていた所から世界チャンピオンになったジェームス・J・ブラドッグ。

黒人差別が行われていた頃、圧倒的な強さでアメリカの黒人に希望を与えた黒人ボクサーのジョー・ルイス。

ベトナム戦争への参加を拒否し国家と闘い、人種差別とも闘い、長期のライセンス剥奪による老い・ブランクとも闘ったモハメド・アリ。

本書に出てくるボクサー達は、強さの象徴ともいえる人物達なので、色々なフィクション(「はじめの一歩」「グラップラー刃牙」等)にも出てきます。

こうしたボクシング・格闘技漫画が好きな人は歴代のボクシング世界ヘビー級チャンピオンについて知っておくと、よりその世界観を楽しむことができます。

 

 

夜と霧

本書を読むと「大体の辛いことも、著者がアウシュビッツ収容所で経験したことに比べれば大したものではない」そう思わされる位に、過酷で残酷な内容が書かれています。

 

本書は、アウシュビッツ収容所に囚われた精神科医の話です。

アウシュビッツ収容所では、いつ収容が終わるとも分からない状況で、暴力と飢えと寒さが囚人を襲います。

飢えや寒さに関する記述について、本書の記載を一部引用します。

ほとんどすべての収容所の囚人と同様に、私はこの頃すでに重い飢餓浮腫に悩んでいた。

私の足はすっかり膨れ上がってしまって、その結果皮膚はぴんと張ってしまい、そのため私は関節をよく曲げることができない程だった。

一方私は膨れ上がった足を入れるために靴を切り開かねばならなかった。

※飢餓浮腫とは、飢えて手や足が細くなるのに反し、腹部等が異様に膨れてしまう症状のことです。

半ば裸の足はいつでも冷たく濡れており、靴の中にはいつも雪があった。もとよりそれは間もなく凍傷や破れた霜焼けになるのであった。

文字通り一歩一歩が小さな地獄の苦しみとなった。

さらには、寝ている間にパンや温かいお風呂の夢を見てしまい、目覚めた時に現実を思い出し、絶望へと追いやられる人も多かったそうです。

 

以外にも、収容所で生き残ったのは、身体が頑丈な人ではなく、精神的に豊であった人だそうです。

著者は、愛する人を思い浮かべられた人、少しでもユーモアを持ち続けられた人、そうした人がどうしようもない苦悩を少しでも紛らわせることができたと振り返っています。

逆に、内面的な拠り所を持たなくなった人は精神的に崩壊していってしまったそうです。

 

本書を読んでおくと、人生の厳しさ・辛さに襲われたときに、何か生きるための気力を得ることができるかもしれません。

 

 

※因みにですが、夜と霧には、下記画像の左側(旧版)と右側(新版)の2版があります。

違いは、左側(旧版)には巻末に当時の写真資料が掲載されており、右側(新版)では削除されています。

私はなるべく多くを知りたかったので、左側の旧版(写真有)を購入しました。

 

 

 

ご参考になりましたら幸いです。

以上

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